ベランダとジャンくん。
ベランダには時おり訪れて、
なんとなく置いてある長椅子に座る。
公園に置いてあるような横長のイスだ。
まぁ、なんとなく公園を意識したからだ。
夜、静かにベランダに出たくなることもある。
ゆっくりベランダに出ても、
静かにベランダに出ても、
ジャンくんはいつの間にかやってくる。
必ずと言って良いほど、ついてくるのだ。
例えば、誰か女性がウチの中に居たとしても、
女性は気づかず寝ていても、
ジャンくんは気づいて出てくる。
星を眺めることもあるが、
その美しさにジャンくんは目を向けない。
ベランダは柵になっている部分があるが、
そこから見下ろして下の建物を眺める程度だ。
ただただ、なぜかついてくるのだ。
哀しくてベランダに出ることもある。
哀しくてベランダに出ても、
ジャンくんはついてくる。
たくさんの猫がこの世にはいて、
それぞれの道を歩む。
時に一匹の猫と繋がり、
特別な存在になることもある。
ジャンくんとは10年くらいにはなる。
哀しみの空気をどうやって読み取るのか
ジャンくんは近くに来て珍しく鳴いたりもする。
ただただついて行き、
時おり追い抜かして先を歩く。
味方であり、信じてくれているのか?
世の中にはそれぞれの価値観、
理由、
生き方がある。
心寄り添い同じ道を行くのは、
なんと尊く、難しいことか。
相手に押し付け、
相手の気持ちを横に置いて、
咎めることの哀しさよ。
人を簡単に憎むことの哀しさよ。
人を睨みつけて、
人を思いやらず、
相手の気持ちを確かめずに押し付け、
自分はこんなにしてあげたのにと
ブツブツ言いながら傷つける人ばかりになってやしないだろうか。
ジャンくんがふらりと椅子に上がって来た。
少し頭を撫でて感謝と愛情を伝える。
時おりケンカはするけれど、
ジャンくんは寄り添ってくれる。
物は言わぬ猫だけど、
寄り添うことで伝わるものなのかもしれない。
寄り添う。
良い言葉だな、と思った。
そして言葉はとても大切だけれども、
ただただ、そばに寄り添うだけの方が
伝わることもある。